Feb 19, 2024 10:53:55 PM

SCP理論とは?SIerとSES会社が独占・寡占を目指して高利益を実現する方法

~SIerおよびSES会社の経営に役立つ経営理論シリーズ:SCP理論編~

このシリーズは、入山章栄氏の『世界標準の経営理論』で紹介されたビジネスパーソンが最低限押さえておくべき経営理論のポイントを紹介し、SIer・SES会社をはじめとするシステム開発会社の経営において応用可能な点を考察するものです。

本記事では、利益率を高めるためには独自のポジショニングを行い独占・寡占を目指さなければならないというSCP理論を紹介します。

入山氏の解説
【動画】https://diamond.jp/articles/-/252182

【記事】https://dhbr.diamond.jp/articles/-/10198

SCP理論とは?

SCP理論(Structure-Conduct-Performance理論)は、市場の構造(Structure)が企業の行動(Conduct)に影響を与え、それが市場の成果(Performance)に結びつくという理論です。この理論は、市場の競争度合いを理解し、企業戦略を立案する際の基礎となります。市場の構造を分析することで、企業は競争優位を築くための行動を計画し、市場での成果を最大化することができます。

Structure(構造),Conduct(行動),Performance(成果)の具体例

SCP理論のポイント

SCP理論のポイントは、「競争を避けて、独占・寡占できる市場を選ぶべき」という点にあります。

我々がいくら努力をしても(行動・Conduct)、市場全体として競争相手が多く、高い値付けがやりづらいのであれば、そもそも市場の構造にある程度自らの行動が規定されてしまい(価格を抑えめにしがちになるなど)、業績(とくに利益)を上げることが難しくなります。

そこでSCP理論は自社のポジション取りを慎重に行うことを促します。

たとえば、都会と地方などの地理的条件の違いにより、プレーヤーの集中度合いが違ったり、新規参入者がいない地域などもあるかもしれません。

また、顧客に提案するサービスの内容を再構築することで、意図的にもしくは結果的に他社との差別化を実現できれば、顧客が自ら進んで高い報酬を払ってくれるかもしれません。

SCP理論は「構造」(Structure)で全てが決まってしまうと主張しているわけではなく、構造的な要因は見えないところで自らの選択肢を狭めてしまうため、競争に巻き込まれないポジショニングを確立すべく戦略を練り、日々の行動も工夫してその他大勢の競合のやり方をずらしていく必要があることを示唆しています。

完全競争と完全独占が利益に与える影響

SCP理論に関する実証研究の概要

SCP理論は、実証研究によってどれだけ裏付けがなされているのでしょうか。

大規模サンプルをつかって企業収益のばらつき(分散)の要因を分解する研究がなされているため、その要点を紹介します。

特定の「産業」であるがゆえに収益性がある程度決まってしまうというのは、5%~20%くらいになります。また、ある企業のポジショニングや行動によって収益性を説明できるのは32%-53%ほどになります。両者を合計すると、全体として50%以上はSCP理論の主張が成り立つと言えます。

SCP理論の主張自体、直感的に受け入れやすい内容で特にひねりがあるわけでもなく、実証研究によってもある程度、理論の妥当性が証明されていることから、理論のエッセンスである「競争を避けて独占を目指せ」という思考の軸を以下に実務に持ち込むかに集中してよいと言えそうです。

産業によって収益性がきまるというSCP理論の実証研究の説得力

参考)中小企業の成長経営の実現に向けた研究会 第1回 資料4

SCP理論のシステム開発業界への応用可能性

システム開発業界におけるポジショニングの取り方の方向性はある程度限られています。

まず、システム開発業界におけるビジネスのやり方の全容を把握するため、アドバンテージマトリクスというフレームワークを紹介します。

アドバンテージマトリクスによる儲け方の分類

アドバンテージマトリクスとは何か

アドバンテージマトリクスとは全ての業界で使うことのできる儲け方・ビジネスモデルを分類するためのフレームワークです。自社の儲け方やビジネスモデルを俯瞰的に捉える際に役立ちます。

What business are we in?(我々はどんな事業を営んでいるか?)という問いに対しては、具体的なオペレーションを説明すれば答えることができますが、これだけでは自社のビジネスの本質をつかむのは困難です。

別の問いとして、What kind of business are we in? (我々はどういうタイプの事業を営んでいるか?)について答えることができれば、より利益を高めていくにはどうすればいいか、大まかな見通しを立てることができます。

アドバンテージマトリクスはそのような場面で汎用的に使うことができます。

アドバンテージマトリクスは、儲けの仕組みを以下の4つに分類します。

・分散型
・特化型
・規模型
・手詰まり型

アドバンテージマトリクスにおける分散型事業・特化型事業・手詰まり型事業・規模型事業

 

横軸は「規模」が大きいかどうかで、競合に比べて優位に立てる可能性があるかどうかを示しています。

縦軸は「戦略」の取り方次第で競合よりも優位に立てる道筋がどれだけたくさんあるかどうかを示しています。

4つの類型について簡単にまとめると以下のようになります。

分散型事業:業界の中に多くのプレーヤーが存在し、各プレーヤーが様々な顧客の様々なニーズに応えるべく、顧客ごとにカスタマイズされた仕入れ品やオペレーションを用意する必要がある業界です。顧客ごとに対応方法が変わるため、共通化できる要素が比較的少ないために、自ずと利益率に限界が生じる傾向があります。一般的に小売り・卸売り業界や飲食業界は分散型事業に該当することが多いです。

特化型事業:特定の領域に特化することで、差別化することができると同時に、領域がある程度絞られているため、複数のサービスを提供する場合にも横展開などによりコストを共通化できる余地が分散型事業よりも大きくあり、結果的に利益率を高くしやすくなります。

規模型事業:いわゆる「規模の経済」によって、初期の投資額は大きくなるものの、事業の規模が一定以上になれば、過去に投資した分のコストは大きく増えず、収益だけが増えていくタイプの事業です。共通化できるコストが大きいという点が利益を生み出すのに重要なポイントとなります。

手詰型事業:規模はそれなりに大きいものの、業界トップレベルの規模というわけでもなく、さらに戦略上の打ち手も少ないために、コストの共通化のメリットを十分に享受できない事業です。一度は規模型事業で利益を出していたものの、次第に同じ程度の規模の競合が増えたり、海外で大規模の競合が登場したりすることで、立ち行かなくなるような状態を指しています。

これらの分類を使って、自社の業界「分散型」であれば、以下のような方針を取ることが考えられます。

(1)「分散型」のビジネスモデルを継続しながら、他社よりも優れたオペレーションを確立することで、利益率の低下を防ぐ方針をとる。

(2)「分散型」のビジネスモデルの中で得られた多様な顧客との関係性を活かして、「特化型」の事業を立ち上げて、大成功すれば「特化型」を主軸にしたり別会社で展開させ、小さな成功であればM&Aでその事業を他社に売却する方針をとる。

(分散型の場合は利益率が相対的に低いものの、顧客の多様なニーズに対応できるため経営を安定させられる余地は大きいのに対し、「特化型」は必然的にマーケットが小さくなるため、独占・寡占ができなければ、高い利益率を出せる事業になるまで育てられない可能性があります。)

(3)「分散型」のビジネスモデルで蓄積した業界の知見を活かし、規模の経済を活かして標準的なサービスを大々的に提供する方針をとる。

アドバンテージマトリクスをシステム開発業界に適用してみた

IT業界はGAFAMのようなインフラ系のサービスに多大な投資を行う部分は規模型事業といえますが、日本においてユーザー向けの業務システム開発や、組込み開発を行うようなシステムインテグレーション事業においては先に設備投資を行う「規模型」というのは考えられません。(もちろん大手SIerで取り組んでいるところもありますが割愛します。)

したがってすべての企業が「分散型」「特化型」および「分散型兼特化型」に分類されます。

システム開発業界における従来の「特化」の方法

まず、1次請け・2次請け・3次請けのシステム開発会社のいずれも、多様性にあふれる日本の様々な企業の業務に対応すべく、「分散型」になります。各産業界において、同じ業界の中でも会社によって異なる業務の回し方があるため、システム開発会社も毎回同じサービスをそのまま提供することはできません。また、開発体制の構成要員も毎度集め直す必要があり、サービスのレベルを維持することは容易ではありません。

業種・業務の特化

その中から、一部の業種・業務に深い知見をもつ開発会社が特化を始めて、うまくいけば自社プロダクトをSaaSで提供する場合もあります。これにより「完全独占」に大きく近づくことができます。ある程度同様のサービスをつくりやすい状況であれば「寡占」になりますが、分散型事業が置かれている「競争」環境からは抜けられます。

汎用的な業務に特化

他方で、特定の業種・業務への特化ではなく、全ての業種で使える汎用性の高いツールに特化することも考えられます。財務会計ソフト、帳票作成・配信ツール、ローコードツールを使った開発などがこれにあたります。

役割特化

もしくは、エンジニアリングの中で、軽視されてしまったり、強化したくてもリソースが足りないような役割に特化するサービスもあります。PM/PMO、アーキテクト、品質保証エンジニアによる開発支援サービスに特化するものです。(業務SEやプログラマは、特定の業界や開発言語に強みがあることをアピールするケースはあっても、それしかやらないというかたちで特化するケースはほぼないはずです。)

従来システム開発業界で行われてきた「特化」は、分散型事業に比べれば利益率は高いものの、特化した領域内での競合が多いというケースもあります。(医療系における、電子カルテシステムのサービス提供会社など)

また、逆に「特化」がうまくいかない場合は、分散型事業(SI/SES)の方が利益率が高い場合もあります。領域によっては、特化はしたものの、市場が小さすぎたり、競合が多すぎることで、「独占」「寡占」からはほど遠いという現実もあります。したがって、完全独占できるような領域を探し続けることに意義があります。

 

システム開発に関わる業務

 

すべての開発会社で取り組むことができる「差別化」:調達の高度化

特定の領域において「特化」して、参入障壁を築けるようになるまでは、従来通りの「分散型事業」にしっかり稼いでもらう必要があります。分散型事業は、利益率はそこまで高くないものの、顧客からのニーズに愚直に応え続ければ、安定した事業を継続・展開できます。また、さまざまな顧客接点から、将来自社における「特化」すべき領域との出会いも期待できます。したがって、ここでは分散型事業のSIer・SESのサービスの品質をいかに上げて、単価アップまでつなげていけるか、ということを検討します。

まず、分散型は多くの顧客に対して同じようにサービスを提供できない点でデメリットがあるようにみえますが、細分化してみていくと、特定のユーザーの要望を、特定の元請け会社が汲み取り、それを特定の2次請け会社が分担して責任をとり、特定の3次請け会社のエンジニアが設計・コーディングを行うといった関係性があります。ここでは、参加するプレーヤーにおいて、発注会社側は特定のパートナーとしか取引をしない傾向があります。大元のユーザーの要望が特殊であるため、すべての関係性に特殊性が帯びるためです。

しかし、これは見方を変えると、受注会社側は特定の顧客の開発案件は独占・寡占できている状態と言えます。規模は小さいものの、長期継続的な取引関係があれば、顧客としても他のパートナーに切り替えるコストが高くつくため、既存パートナーを使い続けるインセンティブが働きます。

ここで、1次請け・2次請けは大きな改善のチャンスがあります。

ユーザーまたは1次請けから新しい開発の引き合いをもらったときに、100%・確実に・スキルがマッチした人をパートナー会社から調達して提案できれば、信頼が蓄積され、独占に確実に近づくことができます。これは小売業・製造業におけるジャストインタイムのような仕組みの構築を意味しています。SIer業界では開発サービスの構成要素が人であるため、不確実性が高く、常に確実に確保するということははじめから諦められています。他社が「エンジニアが見つかれば運がいい」という姿勢でいるところで、確実に見つけて顧客に満足してもらう事ができれば、差別化につながりますし、これを低コストで実現できるオペレーションを組めれば、参入障壁を築くこともできます。

ユーザー企業においても1次請け企業においても、折角確保した予算を前に進めてプロジェクトの進捗がなければ、中期経営計画の実現が遠のきます。これを確実に前に進めるためのロジスティクスを担っているのが1次請けの調達部門・2次請け会社になります。確実に要員・体制を提案できる状態を継続することで、他のパートナーと比較検討されることを減らすことができ、結果的にサービス単価も上げやすくなります。

システム開発会社がおかれた競争環境の整理

「独占」「寡占」に近づくために必要な最初の一歩

業種・業務特化を目指す場合

システム開発会社にとっての「DX」の取り組みになります。

新規事業開発が得意なコンサルティング会社の伴走なども活用しながら、ユーザー候補へのインタビューを行い、将来の見込み顧客のペルソナ・カスタマージャーニーの理解を進めていく必要があります。

技術特化を目指す場合

技術の資格を複数のエンジニアに取得してもらい、特定技術の販売代理店や開発パートナーになることを検討します。

しかし、よほど早い段階で技術シーズを発見できた場合でない限り、新規参入者も増える領域であるため、早期に特定技術とその他のツールやサービスの組み合わせなど、顧客の課題をまとめて解決するポジションを確保できるパターンを探していく必要があります。

役割特化を目指す場合

PMBOKやBABOKなどの資格を取得し、専門家集団であることを認知してもらう必要があります。

日本では一人の優秀なエンジニアが複数の役割を担うことが長く行われており、アジャイル開発で体制内人数を用意には増やせない環境下で、役割の兼任は続くと思われます。

したがって、特定の役割だけを担うサービスの需要は大規模案件に限られるという問題があります。

役割に特化した人材をチーム内に引き入れることでどのようなメリットがあるのかを理解してもらうのは容易ではないため、自社コーポレートサイトやサービスサイト上で、特定の役割を確実に全うすることによってプロジェクトにどのような効果をもたらすことができるのか、理論的に説明するコンテンツや、導入事例コンテンツを用意する必要があります。

調達の高度化を目指す場合

既存パートナーとの関係強化と、新規パートナーの開拓を両輪で進めていく必要があります。既存パートナーと新規パートナーいずれにも共通の評価基準を設け、取引拡大のために案件・エンジニアの情報共有や、サービス品質の目線合わせなどを行います。

スフィアネット株式会社が提供するAperportでは、技術・ドメイン知識・役割・単価によってプロジェクトの募集ポジションとエンジニアのスキルのマッチング度を計算することができます。

また、プロジェクト参画後のサービス品質に対する評価も蓄積することができ、発注会社内での情報共有を促進することができます。

https://aperport.com/

興味のある方はこちらよりお問い合わせください。

まとめ

  • SCP理論が示す普遍的なメッセージは「競争を避けて、独占・寡占できる市場を選ぶべき」という点
  • システム開発会社が特化すべき領域を探すには「業種・業務」「技術」「役割」のいずれかで考えることができる
  • どの領域で特化したとしても、それを支えるエンジニアを自社だけでなく「パートナー」も含めて体制構築する場合は、特定領域を念頭においたパートナーシップの構築・維持・強化を仕組化する必要がある

システム開発会社様が特定領域で特化する際の
パートナーシップ構築・維持・強化に
役立つサービスの情報を提供しています。