調達ナレッジ

エンジニア調達・体制構築にサプライチェーン管理の考え方を取り入れる

作成者: 唐澤裕智|Oct 9, 2023 9:59:00 AM

システム開発業界におけるエンジニア調達・体制構築業務は、製造業・小売業で実践されているサプライチェーン管理の考えを取り入れて実践することで、システムインテグレーション事業の売上・利益・顧客体験の向上を実現できます。サプライチェーン管理の主要な取り組みを押さえながら、これを応用した場合のナレッジをお伝えします。

執筆:唐澤裕智

1.サプライチェーン管理が秘める可能性

システム開発業界におけるエンジニア調達は、製造業や小売業におけるサプライチェーン管理と同じテーマを有していると考えたことはありませんでしょうか?

いわゆる「ジャスト・イン・タイム」です。

小売店の店頭で欠品が生じても、事前に察知していたかのように補充される。工場で品質不良を見つかった場合も、事前に察知していたかのように良品交換を数時間以内に行う。このようなジャスト・イン・タイムのオペレーションを回すためには、サプライチェーン管理が必要になります。

良質な製品・サービスを競争力のある価格で提供することは成熟した社会では当たり前のこととなっており、むしろ顧客が欲しいタイミングにそこにちゃんとあり買える、という状態を実現できるかどうかが、顧客満足に最大の影響を及ぼす可能性があります。つまり、サプライチェーン管理は、最終損益の改善や競争優位性の確立を実現する最大の可能性を秘めています。

ではシステム開発業界が、サプライチェーン管理に取り組むとしたら、どのような施策が考えられるでしょうか。

2.サプライチェーン管理の具体的な施策

ここでは製造業・小売業におけるサプライチェーン管理を参考に、システム開発業界に応用できる点を探っていきます。

(なお、製造業・小売業におけるサプライチェーン管理では物流が問題になりますが、システム開発業界はエンジニアのアサインだけが問題になり、複雑度は下がります。)

2-1 無駄の削減

  製造業・小売業 システム開発業界
重複の最小化 物流プロセスの中で在庫を一元的に保有する倉庫(物流センター)を設けて、チェーン全体の効率をアップする 複数のパートナーにおけるエンジニア情報に法的制約に配慮しつつアクセスできるようにする
業務・システムの調和 企業の間で受発注システムや、運搬機器を統一化する エンジニア・営業・会社に対する信頼構築の基準を統一する
品質の向上 返品を限りなく0に近づけてジャスト・イン・タイムを実現するために、品質を向上する パートナー会社からの提案の品質を向上するための取り組みを行う(できれば顧客ごとに基準を調整する)

2-2 確実な仕入れの実現

社内および顧客との間で、判断基準を共有し、一部は可能であれば数値化も試みる。

  製造業・小売業 システム開発業界
期間の短縮 仕入先から自社の競合への提供を優先されてしまい、自社のサービス提供ができなくなることを避けるため、意思決定を早くする スキルの判断方法について判断基準を明確にし、可能であれば一部数値化もしながら迅速な意思決定を可能にする
リードタイムの確保 需要が予測できる場合には、内定を出す 複数のパートナーに対して案件確度が低い段階から打診を行い、提案を受け付ける
トップ同士の関係性構築 いざというときに融通してもらえるよう、社長または責任者同士の関係を構築する パートナー会社内の異動や採用に関してトップや責任者レベルで具体的な行動をとってもらえるように働きかける

2-3 柔軟な対応

顧客の様々な要望に対して柔軟に対応できるような仕組みを構築する。

  製造業・小売業 システム開発業界
注文処理 注文の処理方法、製品の種類、注文の規模などの変化に柔軟に対応する ・エンジニア1名を調達する場合と、体制構築する場合で柔軟に対応する
・上流のエンジニアと下流のエンジニアの調達方法を変える
・マルチベンダーの場合に2社にするか3-5社にするか規模に応じて調整できるようにする

2-4 コスト削減

顧客から求められるサービスのレベルごとに、コストを可能な限り抑える仕組み。

  製造業・小売業 システム開発業界
不要なコストの排除 重複在庫、製品の二重・三重の取扱い、分散的発送、特別セールなど一貫性に欠ける販売促進など、不要なコストを伴う行動や活動を排除 エンジニアだけでなく、営業・会社含めて深い関係性が無い場合は、重点パートナーへの新規パートナーとの入れ替えも視野に入れて、商流を短くする

3.エンジニアの特性に応じたサプライチェーンとは?

製造業におけるサプライチェーン管理の手法には、扱う商品によって「効率」重視のサプライチェーンにするか、「即応性」重視のサプライチェーンにするかに分かれます。

多くの部品メーカーが製造できる機能的製品の場合は、ロジスティックスや在庫のコストを最小化し、低コストの製造を確実にするための「効率」重視のサプライチェーンが必要になります。

対して、より市場やターゲットが小さく、需要予測も難しい革新的製品を扱う場合には、短いライフサイクルに反応し、供給の不足や過剰を防ぎ、需要のピーク時における高い収益性を活かすための「即応性」重視のサプライチェーンが必要になります。

これを実現するには、顧客需要に関するタイムリーな情報を把握し、生産設備と在庫をどこに配置するかが大事になります。

システム開発業界におけるエンジニアは、多くの場合特殊なスキルを求められため、需要予測が難しい領域になります。また、エンジニア一人一人の待機にかかるコストも毎月30-100万近くかかるため、受注会社は空き要員を抱えるという判断がなかなかできません。

したがって、プロジェクト発足や要員追加に関する情報を把握したら、即座に主要パートナー、全パートナーと段階的にアプローチをして情報交換を進めていくための仕組みを設ける必要があります。これにより、既存パートナーにて発生しうる空き要員を確実に自社に提案してもらい、自社の失注を防ぐ必要があります。

 

4.Aperportが目指すシステム開発業界のサプライチェーン管理

弊社のAperportのサービスは、発注会社からみて自社のシステムインテグレーションサービスのサプライチェーン管理のツールとして捉えていただくことができます。

「パートナーシップの考え方」において申し上げましたが、サプライチェーン管理はパートナーシップの「強化」の一環として行われるものです。

したがって、顧客に対してピンポイントでマッチング度の高いエンジニアを追加で提案したり、体制そのものを構築したりと、柔軟な対応を迅速に行いつつ、そこに至るまでのオペレーションの標準化と効率化を進めたいとを考えていらっしゃる場合は、是非ご利用をご検討ください。