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取引費用理論(TCE)とRBV(リソース・ベースド・ビュー)を組み合わせて外注先パートナーの選定を行う方法

作成者: 唐澤裕智|Apr 9, 2024 6:41:27 PM

~SIerおよびSES会社の経営に役立つ経営理論シリーズ:取引費用理論(TCE)編③~

このシリーズは、入山章栄氏の「世界標準の経営理論」で紹介されたビジネスパーソンが最低限押さえておくべき経営理論のポイントを紹介し、SIer・SES会社をはじめとするシステム開発会社の経営において応用可能な点を考察するものです。

入山氏の解説
【動画】【入山章栄・解説動画】取引費用理論(TCE)
【記事】将来の見通しが立たない時、ビジネスの「取引」にどう対処するか

これまでの関連記事において取引費用理論(TCE)および、RBVと取引費用理論(TCE)を組み合わせた内外製分析(内製化すべきか外製化すべきか)の方法について述べてきました。

本記事では、外製(アウトソース)をすると決めた場合に、どのような手順や基準でパートナーを選定すべきかを解説します。

仕入先パートナーを選定する方法

仕入先パートナーの選定方法は、外製(アウトソース)をすると判断した文脈によって変わります。各象限別のパートナー選定のポイント、要点や狙いは次のとおりです。

象限

パートナー選定のポイント

要点や狙い

Aの場合

コア業務の一部は内製化することを前提に、安定した技術力で自社のプロパーに教育もしてくれる固定のパートナーを選定します。

自社プロパーを育てることを協力してもらうことから、いつ内製化を拡大する方針になってもおかしくないことを理解してもらい、機会主義的行動を抑制します。

Cの場合

求められるスキル要件に対する合致度と、費用を形式的・厳格に確認してパートナーを選定します。

非中核領域であるため、パートナーを過度に固定化せず、新陳代謝を促すことで、競争原理を働かせ、機会主義的行動を抑制します。

Dの場合

業務を標準化し、新しいパートナーの開拓を目指します。

徹底的な業務標準化により特殊な関係が発生することを避け、機会主義的行動を抑制します。

TCEの観点から外製すべきと判断した場合(象限A・左上)

持続的な競争優位の源泉となりうるようなリソースではあるが、外注先が機会主義的行動をとる可能性が少なく、取引費用をそれなりに低く抑えられる状況において、取引費用理論(TCE)の観点を重視して外製(アウトソース)を選択している場合について考えます。

この場合は、基本的に外製化路線になりますが、完全に外注にはせず2割程度は自社内の内製を続けます。これにより、いざ内製を拡大しなければならなくなったときにスムーズに対応できたり、仕入先にノウハウが一方的にたまりすぎて機会主義的行動をとることを防ぐことができます。

自社の内製比率が低いが、それでも将来改めて重要事業として内製化する可能性も残っていることから、実力がありつつも、機会主義的行動をとらないパートナーと良好な関係を続けていく必要があります。

具体的には、値上げを頻繁に要求せず粛々と業務をこなしてくれるパートナーに寄せていく必要があります。

また、自社での内製を行うにあたり、経験の浅い自社プロパーをアサインする場合には、仕入先パートナーに対して自社プロパーの教育もお願いしてスキルレベルが均衡になるようにする必要があります。

したがって、パートナーの選定にあたっては、パートナーの方が担当業務量が多い可能性も踏まえて、一部のスキルのある人をパートナーに確保してもらいつつ、それ以外のメンバーは人物面で機会主義的行動をとらない人を意識的に集めていただく必要があります。

また、低コストを優先するのではなく、将来の重要事業を共に担うパートナーとして、対等な立場でタッグを組むことを意識し、高めの単価であっても受け入れる判断が必要になります。自社プロパーの教育も行ってもらうことで、高単価であることを正当化することができます。

なお、中核領域であるため、秘密保持の観点からも、新陳代謝を促す必要はなく、基本的に固定のパートナーを活用します。どうしても新規のパートナーを巻き込む場合には、固定パートナーの体制の中に組み込んでもらう形にすることが有効です。

(固定パートナーが自社のノウハウを開示しつつ、顧客の利益を優先できるのは十分な利益を確保できているからであり、仮に利益が削られるのであれば、ノウハウの開示を止めるなど、機会主義的行動をとるリスクが増えます。)

RBVおよびTCEの両方から外製すべきと判断した場合(象限C・左下)

ある事業・業務が、他社と比較して競争優位につながらず、しかも外部にアウトソースしても機会主義的な行動をとられる可能性が低く、取引費用を抑えられる状態であるために、アウトソーシング(外製化)を選択する場合について考えます。

この場合は、外部の仕入先の間で競争原理が働いており、仮に長期的な契約関係となったとしても、他社に容易に顧客を奪われてしまわないように、長期的に顧客の利益を考えてくれる状態だと推測できます。

したがって、パートナー選定にあたっては、まず業務の標準化を徹底させた上で、その標準業務を遂行するために必要なスキルさえ合致していれば、様々なパートナーを活用できるようにすべきです。当然より低いコストで必要最低限の業務を遂行してくれるところを優先します。

RBVの観点から中核事業ではないため、事業の拡大は難しいかもしれませんが、現状維持は求められる可能性があります。そのために特定の仕入先パートナーで固めてしまうと、関係特殊性が増して機会主義的行動をとるリスクが増えます。

他のパートナーで対応できるのであれば、意識的に既存パートナーをより挑戦的な領域に回して、新規のパートナーに非中核領域を任せるべきです。これにより、新規のパートナーの実力と機会主義的行動をとりやすいかどうかの情報を収集することができます。仮に実力が不足していたり、機会主義的行動をとるタイプの会社だということが判明した場合は、改めて新しい仕入先パートナーを探します。実力があり、機会主義的な行動をとらない融通の利くタイプの会社だとわかれば、他の領域を任せます。

もちろん、同じ仕入先パートナーの中で経験豊富な者から未経験の者に対してスキルトランスファーしてもらうことも可能ですが、新規の仕入先パートナーの営業および会社全体の機会主義的行動をとる傾向を探ることができなくなるため、意識的に新規パートナーの活用をするのが望ましいです。

なお、将来にわたって内製化する可能性はないため、パートナーに内製化支援能力を求める必要はありません。

RBVの観点から外製すべきと判断した場合(象限D・右下)

競争優位につながらず、競争劣後・競争均衡にとどまるようなリソースではあるが、外部にアウトソースしてしまうと機会主義的な行動をとられる可能性が高い状況において、RBVの観点からアウトソーシング(外製化)を選択した場合について考えます。

この場合は基本的には外製化路線であるものの、仕入先が機会主義的行動をとる可能性が高いため、そのリスクを低減する策を講じる必要があります。

取引費用理論(TCE)とホールドアップ問題とは?摩擦を制するものが関係性を制す」で解説したように、仕入先の機会主義的行動の原因となる「不確実性」「低頻度の取引」「関係特殊性」を解消するために、業務の標準化、仕入先の分散化、契約期間の長期化・細分化などの手段を講じます。

これを踏まえると、パートナーの選定基準としては、関係特殊性が高いなかでも、業務の標準化に積極的に協力をしてくれるような仕入先パートナーを探すことが重要になります。初めから業務の標準化を業務の一部として定義してアウトソースを行い、機会があれば積極的に新しい仕入先パートナーを探す必要があります。

逆に技術力が高い場合、その技術を関係特殊性を高める方向に使ってしまうことにも注意が必要になります。より抽象的に業務設計能力に技術を生かす意識の高い仕入先パートナーを重視すべきです。

また、「長期でコミットしてくれるパートナー」を探すのではなく「長期でやらせていただける仕事を探しているパートナー」を優先すべきです。

前者については、発注側が「長期でコミットしてくれますか」とパートナー候補に確認したとしても、そこで「長期でコミットできない」と回答することは基本的に考えられません。B2Bのビジネスは基本的に長期の関係性がデフォルトであり、これを否定することは信頼構築を放棄することになるからです。(短期の高単価コンサルティングを重視している場合などは別です。)

実はより利益率の高いビジネスの機会があればそちらにリソースを回す方針かもしれません。また、短期でもいいのでいろいろな領域に挑戦して成長を重視しているかもしれません。

仮に他のビジネス機会におけるより大きな利益や、挑戦による成長を諦めるたとしても、その代わりに単価アップなどを要求して機会主義的行動をとる可能性があります。

他方、後者の「長期でやらせていただける仕事を探しているパートナー」をスクリーニングできるのであれば、何らかの事情で安定した仕事を確保したいがために長期の案件を希望しているはずであり、安定と引き換えに機会主義的行動を抑制してもらうことができます。

仕入先パートナーの評価を数値化する方法

仕入先パートナーの選定に必要なポイントを押さえたら、複数の評価指標の間の優先順位を検討します。以下のサンプルの表においては「重要度」としてどの要素をより優先的に重視するかを、重みづけとして数値化しています。

その上で、実際の評価を例えば3段階で行い、その段階に応じた点数を付与します。

点数と重要度(優先順位)を掛け合わせることで、各パートナーの評価を数値化することができます。

【象限A(左上)の場合】

【象限C(左下)の場合】

【象限D(右下)の場合】

なお、重要度(重みづけ)や、各評価の点数のつけ方については、それぞれの評価項目の間の関係性や、各評価項目の上位にある目的との関係性に応じて、より合理的に求める手法もあります。(例えば、階層分析(AHP(Analytic Hierachy Process)分析など)
参考)階層分析(AHP分析)

本記事では、仕入先パートナー選定方法においてTCEとRBVからの示唆を反映させた評価基準を取り入れることを目的としているため、より正確な分析手法の解説については割愛させていただきます。